3月14日、三和・東海・あさひ三行の経営統合が正式に発表された。銀行規模は、国内第2位、世界でも第3位というメガバンクの誕生である。ここ数年、世界的に銀行の巨大化傾向が続いているが、新銀行は全世界で広く活動すると言うよりアジアで強く、国内では東・名・阪に強いという地域的に偏った力配分になっている。
 さて、この3行の経営統合は、実はクレジットカード業界にとって初のケースとなる要素を含んでいる。それは、ブランドホルダーの母体行同士の統合ということである。
 これまでは、東京・三菱(DC)、住友(VISA-JAPAN)・さくらというように、 ブランドホルダー母体行とそれ以外の銀行というような、将来的にはカード業務が簡単に統合されるであろうケースが多かった。
 ここで、ブランドホルダーとその母体行との関係を見てみよう。
 

JCB:三和  VISA-JAPAN(OMNI):住友  UC:富士(メイン)・さくら・第一勧銀など  DC:東京三菱  MC:東海


 これまでの合併・統合は、単独母体行同士のものはなかったことが解ろう。例えば、あさひ銀行は現在、UC・JCB・VISA-JAPANのカードを発行しているが、これは協和・埼玉の両行の持っていたFC権をそのまま継承したに過ぎない。その結果、VISAマークの入ったカードが2種類に、UCマスター、JCBまで発行されるという状況になっている。
(母体行といっても、UCの場合は富士銀行の力が強いので、他行は簡単にFC権を手放すことも考えられる。)
 こうして見てみると、これまでは
1.どちらかの銀行の持っているブランドに統一する
2.両行の持っていたブランドを並行発行する
という、2通りの形態であったことがわかる。国内の合併行の大多数は「2」のケースで、東京三菱のようなことは珍しい。
 では、なぜ「2」のケースが多いのか。その理由として、
(A)合併行同士のなわばり争い
(B)一度確保したFC権を手放したくない
(C)統一する場合、すでに発行しているカードの切り替え等の問題
といった理由が挙げられる。
 (A)については、銀行に詳しい方はご存知だと思うが、それを象徴するものに「たすき掛け人事」というものがある。たすき掛け人事とは、例えばA行とB行が合併する際、「最初の頭取(社長)は旧A行から、次の頭取は旧B行から、その次の頭取は旧A行から」というように交互に出していくものである。しかも、役員数を偶数にして、旧A・B行出身者を半分ずつにするなど、徹底的に「平等」になるように人事が組まれる。第一勧業銀行などは、未だに旧第一系と旧勧業系で確執があるとも言われており、このなわばり争いは根強い。特に大手行になればなるほどこの性質は強くなり、しかも旧財閥系は特に強く出る。これは、関連会社であるカード会社においても同じことがいえ、結局両行系のカード会社が残ることとなる。
 (B)は、簡単にいえば、単にブランドホルダーからカードの発行権利を購入したのに、手放すのはもったいないということだ。
 また(C)は、例えば、C銀行とD銀行が合併するとしよう。D銀の規模の方がC銀の3倍もあって、実質吸収合併だ。C銀ユーシーカードというカード会社があったとする。合併相手のD銀はD銀ジェーシービーという会社を持っている。
 さてこの場合、C銀が吸収合併されるのに伴って、主にC銀系の子会社が整理されることになるが、C銀UCには会員がいるので、C銀ユーシーカードを解体することは現実的に不可能だ。
 もし、C銀UCを整理する場合、
(1)C銀UCをD銀UCと名前を変えて営業しD銀系カード会社をJCB・UCで並立させる
(2)会員をブランドホルダー等の他社に渡す
(3)C銀UCカードをD銀JCBカードに切り替える
(4)会員を見捨てる(即廃業)
(5)新規発行をしない
(6)期間限定で存続
の方法が考えられる。
 この中では(1)が現実的だ。わざわざ収入源を絶つ(2)は無いだろうし、(3)(4)は抵抗する会員も出る。しかも、ブランドによって会員資格が微妙に異なるので、発行してもらえない会員が出ることも考えられる。(5)(6)は、様々な思惑が絡むと、考えられるケースだ。
 しかし、通常は(1)の現実的な方法が採られることが大多数だ。(2)〜(6)と違い、(1)は問題を先送りできるからだ。

 では、今回の3行統合はどのケースになるのだろうか。この3行統合は吸収合併ではないので若干例えと違うが、三和JCBとミリオンカードサービスは、両社存続というケースが考えられる。つまり、持ち株会社の下に両社とも入り、3行が両方のカードを発行する方式になるのではないか。三和とJCB本体とは、三和銀用の発行会社があるので、これまで通りの関係が続くであろう。この場合、あさひ系のカード会社は、整理されることになる。
 また、もっと進んだ形になるかもしれない。グループでカード会社を一つにするケース。この場合、三和カードとミリオンカードが合併し、JCB、MC-VISA、MC-Masterの発行を行うことになる。ひょっとしたらMC-JCBなどというものも飛び出すかもしれない。この場合もあさひ系のカード会社は切り捨てられるであろう。
 しかし、別のケースも考えられる。三和がJCB本体・東海がミリオンカードサービスにこだわった場合である。JCBのメイン行が三和である以上、JCBが三和銀でミリオンカードを勧誘するのを拒んだ、あるいはミリオンカードサービスが東海銀でJCBの勧誘を拒んだ場合。もしくは、三和が新しいグループでJCBしか認めない場合・東海がミリオンしか認めない場合。そして道義的理由を基に、両行が結局片方のカードの発行しかしない場合も考えられる。
 その場合には、両方のカード会社がこれまで通りに三和:JCB、東海:ミリオンのカードのみを発行する形になる。そして、あさひは両社の板挟みにあってしまう。
 そうなった場合、あさひが自社系のFCカード会社を手放さないことも考えられる。この場合結局は、統合後もそれぞれの銀行がそれぞれのカードを発行することになる。
 これらの場合、カード業務に関しては経営の効率が図られず、「何の為の統合か」という声も上がろう。
 統合の意義は、経営の効率化を図り、様々な局面に対して対応しやすい体制を築くことにある。当然、関連会社の整理なしでは、効率化などは図れない。東海・あさひの2行が経営統合の作業をしている間も、「統合会社の発行するカードはミリオンカードしか考えられない。(東海サイド)」「これまでの顧客からカードを取りあげることはできない(あさひサイド)」と揉めた経緯もある。ここにJCBの母体行の三和が加わったことで、ますます、話が拗れる可能性もある。

 今後の3行の行方・系列カード会社の行方から目が離せない。

(2000.3.17  2000.9.6一部修正)

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